家電メーカーのような技術系の会社は、どうしても技術系の人が経営者になりがち。技術系の人は(私も含めてだが)色々な問題を論理的に解決しようとする。技術的な問題を解決するためにはこのアプローチはとても有効だが、消費者心理のように曖昧で非論理的なものには適用できない。
技術系の経営者が陥りやすい失敗は、自分がコントロールできる分野、すなわち、技術的に難しい問題を解決することにばかりエネルギーをそそぎ、非論理的で簡単にはコントロールできない消費者の動向のようなものに十分な注意を払わないこと。
その結果、「消費者はどのみち論理的な行動なんてしないんだから、それに関して色々と戦略を立てたところで無駄」という発想の元に、「良いものさえ作れば売れる」というプロダクト指向・技術指向の経営に陥ってしまうこと(自分が得意なところで勝負したがるのは人間の常)。その結果が、消費者のニーズを無視した「ひたすら大きなテレビ」「ひたすら高性能なパソコン」「ひたすら高機能なケータイ」作りである。
最近やたらとアップルが成功しているのは、やはり「マーケティングの天才」であるスティーブ・ジョブズがトップにいるから。iPhoneには加速度センサーやマルチタッチなどの最新の技術が使われてはいるが、そこに惑わされてはいけない。iPhoneが「業界全体を揺るがせるほどのインパクト」を持っているのは、とことんにまで使う人の満足度を高めるために綿密に設計された「消費者指向」のもの作り・マーケティングの結果であるから。
加速度センサー・マルチタッチという最新の技術を持てば他社と差別化できると思って入れたわけではなく、使い勝手の向上のためには加速度センサーとマルチタッチが不可欠、という理由で入れている点に注目すべき。カメラの画素数が日本のケータイほど高くないのも、画素数を上げてもユーザーの満足度には繋がらないから。スペック競争の消耗戦におちいりがちな日本のメーカーとは大違いだ。
正面にボタンが一つしかないこと、箱を開けるとすぐにiPhoneが見えるように梱包されていること、iPhone SDKのNDAがあれほど厳しいこと、シリアルナンバーが刻印されていること、薄くて軽い割には妙に質感があること…そういった一見あまり本質的でない部分でのこだわりが、実はユーザーの満足度に直結しているということは、技術一本やりの経営者にはなかなか理解しにくいのかも知れない。
色々なメーカーから「iPhoneキラー」を自称するデバイスが出て来ているが(例:Samsung’s Instinct)、どれもが全く対抗出来ていないのは、それらの企業が技術面・プロダクト面でしかiPhoneを見ていないから。アップルがどうやって消費者の心をつかんでいるか、どうやったら多少の欠点までもかわいく思えてしまう熱狂的なファンを作っているかを理解した上で戦略を立てない限り、差は開くばかりだ。
なぜ「iPhoneキラー」がことごとく失敗するのか